代表メッセージ
【共有地の悲劇】
夏期に、小6の公立中高一貫校受検コースの文系授業で、「共有地の悲劇」という寓話を題材にした文章問題を扱いました。授業をしながら時々窓から外に目を遣ると、暑さのせいか日差しのせいか、まるで色のない真っ白な世界が広がっていました。
「共有地の悲劇」(経済学用語「コモンズの悲劇」)とは、ある農村の「共有地である牧草地」が舞台となっています。ある時まで、村人はそれぞれ自分の分(ぶん)を守って共有地である牧草地に自分の牛を放牧し、それぞれの暮らしの足しにしていたのですが、ある日、知恵の働く村人が子牛を何頭も買ってきて共有地に放牧し、売りさばいて財を成します。それを見ていた他の村人たちも、成功した村人を真似て多くの牛を放牧するようになり、その結果、牧草は食べつくされ、牛はみな飢え死にし、村人たちはお金を損して不幸になるというものです。村人はみな、牛の数が増え過ぎれば、やがて牧草が食べ尽くされて悲劇が起こることを予期していたにも拘わらず、彼らは牛の数を減らすことはできませんでした。なぜなら、牧草地は「私有地」ではなく「共有地」であり、自分が減らしても、他の村人がどんどん数を増やすことは目に見えているからです。自分だけ損する訳にはいきません。
【地球環境問題】
「共有地の悲劇」は、単純に国語の文章問題で環境問題の題材として扱った訳ではありませんが、授業の枠を広げて、「これは今我々が直面している環境問題と本質は同じだね」と話すと多くの生徒が深い関心を示してくれました。実際、多くの人々は、人間が現在のまま二酸化炭素などの温室効果ガスを出し続ける生活を続ければ、やがてこの地球の気温がそのガスの影響を受けて上昇し、住めなくなるのではないかと憂慮しています。勿論反論する人も多いようですが、これだけ夏が暑くなると、彼らの反論も年々その拠り所を失いつつあるように思います。大気圏はいわゆる「共有地」ですから、そこに住む住人(我々)は、自分たちが二酸化炭素を減らしても、減らさずに利益を得ようとする狡猾な人間がいると考えると、環境が瀕死の状態になるまで放置し続けることになるかもしれません。
【様々な国際環境会議】
地球環境問題を解決するために1972年の「国連人間環境会議」以来、多数の国際会議が開催されてきました。また、COPで知られる「締約国会議(Conference of the Parties)」は毎年開催され、29回目の今年はOP29としてアゼルバイジャンで開催されました。子供たちの将来にも関係することですので、興味深く報道を見ていますが、結局は温室効果ガスを出し続けて発展した(所謂、現在完了形の)先進国の排出量削減と、今後の経済発展のため排出量が大幅に増加する見込みの新興国との数量的せめぎ合いに終わり、且つ、アメリカ・中国・ロシアなどの排出大国が積極的に参加しようとしない「共有地の悲劇」的状況が続いています。本当に問題は解決できるのでしょうか。
【環境に優しいエネルギーの利用】
最も代表的な温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を低減するために、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用は効果的ですが、コストや安定性といった面からみると、まだまだ課題は多いようです。原子力はどうでしょう。確かに低コストのクリーンエネルギーですが、その反面、一旦事故を起こすと環境に壊滅的なダメージを与えます。そのため、環境問題を重視するドイツは徐々に原発の運転を停止し、2023年には完全に決別しました。しかし、そのドイツが揺らいでいます。脱原発に伴う電気料金の高騰がドイツ経済を圧迫しています。日本経済新聞の記事によると、ドイツの化学・鉄鋼などのエネルギー使用が大きい産業の生産量は過去2年で2割減り、その分を中国が穴埋めしています。環境規制が緩く、石炭火力などの利用で電力コストが低い国に生産が移転する「カーボンリーケージ」が起こっているようです。牧草地を守ろうとして放牧頭数を制限している村人がいる反面、牧草地などお構いなく牛を放牧し利益を得ている村人がいる、まさに「共有地の悲劇」です。
【利己主義の衝突】
国際平和を担当する国際連合・安全保障理事会の常任理事国であるロシアが国際法を無視してウクライナを侵襲し、日々多数の人命が失われています。また、同じく常任理事国である中国が急速に軍事力を増強し、それを背景に、第二次世界大戦以後の東アジアの秩序を変更しようとしています。何が彼らを動かしているのかと考えると、結局のところは「国益」にたどり着きます。領土・領海を自国の国益でしか見ることが出来ないのでしょう。領土が増えればより多くの地下資源が手に入る、領海が増えればより多くの海洋資源が手に入る。排他的経済水域などから排他的に扱われるのは自国ではなく他国であるべきだ。ここには国際協調・利他主義という概念はどこにも見当たりません。
【山王学院の目指すもの】
山王学院はこのような激動する世界情勢も意識し、「利他主義の重要性」を常に考えながら指導することを心掛けています。そして、自分の合格だけを考えて勉強するのではなく、教え合い助け合い仲間と目標を共有し合うことで、仲間と自分にやる気と勇気を与え(教えることで自分の知識も整理し)合格時には共に喜び合う「豊かな合格」を目指しています。また、「国際理解」と「英語を話して人生を2倍楽しもう」をモットーに、英語教育にも力を入れてきました。英語力を測る物差しは英検だけではありませんが、英検の質的レベルは近年、確実に向上しています。山王学院は、小学生で3級、中学生で準2級か2級、高校生で準1級か1級の取得を目指しています(知多半島では圧倒的実績を残しています)。日本の英語教育は、能力や興味に合わせて開始時期を変えるようなことはしませんが、山王学院は希望する生徒にその機会を与えたいと考えています。山王学院はこの英語だけに限らず、他教科でも塾生の皆さんにそのような機会と環境を与えることも出来ればと考えています。いわゆる「天井に蓋をしない環境」が、楽に天井を突き抜ける機会を生徒に与えるものではないでしょうか。
代表 合田 威里
元大学講師(国際関係)
筑波大学大学院修了