代表メッセージ 2017年

代表メッセージ(2017年)

自ら考え、自ら解決

2020年度から新しい学習指導要領が実施されます。戦後9度目の改訂になるとのことです。改訂される次期学習要領ですが、現在の学習指導要領を引き継いで、「ゆとり」か「詰め込み」かという二項対立を乗り越え、基礎的な知識及び技能、思考力・判断力・表現力等、及び主体的に学習に取り組む態度という学力の三要素のバランスのとれた育成を重視するとあります。また、ほぼ同時期に行われる「高大接続改革」も加え、「自ら課題を見つけ、取り組み、他者とコミュニケーションを取りながら乗り越えてゆく力」を育むことも強調されます。まさに「未来を生き抜いてゆく力」「創造的な力」の養成です。 さて現在、多くの人間が、今の子供たちを取り巻く環境は急速に悪化、複雑化するだろうと想像しています。そのことが次期改訂の根底にあるのは間違いないと思います。どのような環境なのでしょうか。

不確実性の増す未来

第二次世界大戦後、廃墟の中から再出発した多くの国々は、戦争の主な原因となった「偏狭なナショナリズム」や自国利益を優先する「保護貿易政策」などを反省し、様々な「対策」をとってきたように思います。しかし戦後も70年以上が経過し、多くの国々の多くの人々は、いつの間にかそのことを忘れかけているのではないかと首を傾げたくなるようなニュースが毎日のように流れます。
 
 昨年6月に、イギリスの国民投票でイギリスがEUから離脱する(Brexit)ことになりました。多くの人間が驚きの声をあげました。 20世紀は社会主義の壮大な実験が行われ(国家レベルでは主に東欧で)、また第二次大戦後の西欧ではナショナリズムの克服というこれまた壮大な実験が並行して行われた(行われている)と学生時代に学びました。前者は1991年のソビエト連邦崩壊で実質的には幕を閉じましたが、後者の場合、その克服に使われた(使われている)方法は、ヨーロッパに暮らす人々のアイデンティティを「私はフランス人」や「私はドイツ人」というものから「私はヨーロッパ人」というものに拡大することにより、それまで「分離の悪しき概念」と認識されていたナショナリズムを「ヨーロッパ統合の希望的概念」へと昇華させようとするものでした。ヨーロッパが、ヨーロッパ人としてのアイデンティティで一つになり、国境も民族も宗教(宗派)も全て克服する夢のような世界の現出です。この実験は、原加盟国6カ国から7度の拡大を経て現在28か国が加盟し、2012年にはノーベル平和賞を受賞するまでに成功しました。しかし、イギリスはその理想を捨ててEU離脱を決め、それに追従する動きもオランダなど複数の国で活発になっているようです。悪しきナショナリズムの復活でしょうか。

保護貿易対策の台頭

自由貿易に関しても、戦後すぐの1948年に発効したGATT(関税と貿易に関する一般協定)やそれを受け継ぐWTO(世界貿易機関)といった国際組織、様々なFTA(自由貿易協定)を通して、世界は保護貿易の台頭を抑えてきましたが、2008年のリーマンショックに端を発した世界同時不況による経済成長の失速の中でブロック化と保護政策の進行が頭をもたげ始めています。次期大統領に決まったアメリカ合衆国のトランプ氏は「America First」を選挙期間中から公言し、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)にも否定的です。その理由は「アメリカの利益に合わない」という利己的なものでした。イギリスのEU離脱決定にも似たような理由が挙げられています。「自由な人、物の流れはイギリスの利益に合わない」と。こうして将来再び、保護貿易主義の気運が全世界に澎湃として起こることになるのでしょうか。 昨年の11月に、防衛大臣や農林水産大臣を歴任した衆議院議員の石破茂氏の講演を聞く機会がありました。『国を想う』という演題でしたが、その講演の中で特に印象に残った発言は、「global economy は国と国との格差解消には役に立っているが、同時にそれは個人個人の格差を急激に拡大している。それが一番進んでいるのが英米で、その結果がアメリカでのトランプ氏の出現や、イギリスのEUからの脱退に繋がっているのではないか」との分析でした。

不安定な世界情勢

第一次世界大戦の非合理から国際連盟や軍縮という合理が生まれ、しかしながらその合理の中から、第二次世界大戦という未曾有の非合理が生まれました。戦後、人類は再び国際連合やEUといった合理を追求してきましたが、2014年のロシア(国連安保理事会常任理事国)によるクリミア半島の一方的な併合や、中国(国連安保理事会常任理事国)の南シナ海での一方的な領土拡大を見るにつれ、再び非合理の世界が出現するのではと多くの人間が危惧しています。非合理を繰り返して合理に戻る、そしてその合理を繰り返しながらまた非合理に行き着く、それが人間の歴史なのでしょうか。

最後に

今の子供たちは、この様な国際情勢の中で生きていかざるを得ない訳ですが、その行く手には第四次産業革命とも言われる、進化した人工知能が様々な判断をしたり、身近なものの働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来も待ち構えています。全ての課題・問題が全ての人間にとって初めてのことですから、解決方法は過去には存在しません。まさに自ら考え自ら解決する力が時代から要請されているのです。もちろん英語力の必要性はいかに強調してもし過ぎることはないでしょう。未来を見据えてしっかりとした実力を身に付けなければなりません。山王学院もしっかりお手伝いしなければならないと考えています。

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